『弱法師』中山可穂著 読了
能をモチーフにした不可能な愛を描く短編集
なんですけど・・・
能、全く興味なくて・・・大丈夫か?読めるか?な私だった。
が、なんと一気読み!
中山可穂さん初読みは、本スキーより絶賛おススメされた『弱法師』だ。
『弱法師』、『卒塔婆小町』、『浮舟』の三篇からなる短編の題名からして、何だか報われない恋愛が漂っている。
その1『弱法師』
難病を抱える少年。
母は、いわゆる魔性の女。息子の主治医で妻子ある男を虜にして奪ってしまう。
継父となった主治医と、難病の少年の親子を越えた愛。
母親のセリフにドキリと本を閉じそうになる。
「あの子は時々、女の目であなたを見る」
とてもじゃないけど、痛々しくて、非現実的な世界で溺れそうになった。
その2『卒塔婆小町』
本を開くと扉には「レスリー・チャンに捧ぐ」との一文が迎えている。
最初は『弱法師』で次が『卒塔婆小町』と続くのだが、レスリー・チャンに捧げているのは間違いなく『卒塔婆小町』だろう。
墓地に住むホームレスの老女が、新人賞をとった後に鳴かず飛ばずな作家の高丘に「伝説の名編集者」の話を語り始めるといった形式をとっている作品。
女性編集者の愛を得る為に、小説を捧げ続けた若き作家の息も詰まるストーリーが展開されていく。
中山可穂という作家の文章には血が流れている。
「ワインが喉元を滑り落ちていく刹那にほのかな桃色に染まる耳たぶ。難解な批評言語がシャンソンのように飛び出す小さな唇。原稿のページをめくるしなやかな指先。」
ページをめくる指先まで、ワインの熱量が伝わって体がジンジンと震えてくるようだ。
ここですっかり中山ファンになってしまった私だが、物語は結構重い・・・
軽くむち打ちな気分でドシンと胃が痛む。
叶わぬ愛には、命を削るほどの狂おしい愛が存在する。怖い・・・
その3『浮舟』
とりあえず、これは三角関係のお話しで合ってるよね?
でも、そのトライアングルの矢印がなんか・・・違う。
あの・・・この作家さん、同性愛に長けてる?
(この言い方はあってるのだろうか?)
たぶん、私が苦手とする分野なんだろうけど、微細な表現力にノックアウトされて一気に読まされてしまった。
次が欲しくなる
同性愛な作品をかなり苦手としてる自分だけれど、この壁を乗り越える使命のように中山可穂さんが私の前に現れた。
つうか、そんな壁を乗り越える使命って必要か?
ただ、文章が好きだわ。
全体に流れる「死」への向かい方や、溺れる愛とは違った狂った異形の愛。
さて次はどれにしようか・・・