『通天閣』西加奈子著 読了
「絶望するな。僕達には西加奈子がいる。」又吉直樹
の、帯(炎上する君)でお馴染みの西加奈子さんのデビューから4作目の
『通天閣』(単行本)を読了。
とにかく痛快なニシカナ節に、気持ちもすっかり毒づいて気分爽快♪
ほら、綺麗で健やかな人物ばかりが登場して、苦しみも悲しみも乗り越えるって小説読むと、自分の中の「毒」がうずうずして気持ちが晴れない時がある。
「世の中、そんな人ばっかだったら生き辛いな~」
って、思う事があるんだよね。
そんな私にピッタリな西加奈子さんの言いたい放題、歯に衣着せぬ文章は黒いように見せかけて白衣の天使が差し出した処方薬に違いない。
夢日記とコラボ?
44歳の独居で工場勤務の男性と、20代半ばでスナック(チーフ担当)勤めの女性(雪ちゃん)が交互に物語を編んでいく。
時には、夢日記のように二人が見た夢から始まる手法が、そのしょーもない夢によって彼や彼女の精神状態のわずかな揺れが見て取れる。
登場人物の個性くっきり
スナック(サーディン)のママの声にならない「・・・ですので・・・」と台詞を表記し、雪はもうイライラしっぱなし。その暗い性格を、「背中に「怨」という字が刺繍されていても誰も驚かないと言い放ち、全くだ!と読者に相槌を打たせる、凄いぞニシカナ。
スナックには下ネタ好きの千里さんや、嘘つきまみさん、何やってもオバサンくさい響さんなど、「私、そこ行ったわ!」ってくらい、ありありでお見事。
ライト兄弟って・・・
訳アリ独身中年男性は、大小二つの懐中電灯「ライト兄弟」を工場で作っている。
100均などで売られている安物ライト兄弟である。
このネーミングも、ニシカナ独特で、もう、大小二つのライト兄弟が本当に現実にあるのか?ダイソーに走りたくなった。(笑)
その中年だが、「どん底」だとか「底辺」が似合う自分に何処かイライラしっぱなしで全く素直じゃない。
いるかも・・・そんな若者!
あっ!!!!中年だったじゃん。
と、ここで中年を描ききれてないニシカナさんの中年不足が顔を出した。
ただ、彼が通う塩焼きそばの店。そこの大将とパートの女性を巡る男の脳内妄想がなかなか面白い。
馬鹿だな~。と思いながら私ったら、臨場感あふれる妄想に付き合ってしまったじゃないか。
通天閣
表題の通天閣に1度だけ登った事がある。もちろん、ビリケンさんの足の裏もなでてきた。
その時の私は、通天閣の猥雑な雰囲気をスマートな東京タワーと比較して記憶していた。
この作品の中に、私の中のほとんど馴染みのない通天閣を超絶素晴らしく描いた文章があった。
「明かりをつけたそれと、消えているそれとがあれほどまでに違う建物を、俺は見たことがない。明かりがついているときは、「じゃんじゃんいきまひょ」とでも言うかのように、飄々と信用ならないおっさんの雰囲気をかもし出してるのに、明かりが消えた途端、妙に殊勝になり、「わてなんかこの世で何の役にもたってまへんのや」と、情けない表情を見せる。」
ああ、私、ここばっかりを手に入れる為にこの作品に出会ったんだわ。
ページ数203!軽く、一気に登ってしまおう、通天閣へ!