『生きていくうえで、かけがえのないこと』吉村萬壱さん著 読了
『生きていくうえで、かけがえのないこと』吉村萬壱 P123
『ハリガネムシ』で芥川賞を受賞したディストピアな作品を多く執筆している吉村萬壱さんの初のエッセイ。
なんか、教えたくないな…
(字、デカッ・・・)
これ読んだらきっと吉村ファンが増えてしまう危険があるわ。やだな、ジェラシー。
精神的に大きな喪失感を味わったり、希望が打ち砕かれた人にとっては、あらゆる刺激が痛過ぎて受け容れられない。
そういう人が力を回復するまでには、何年何十年を要するだろう。
私の身近にもそういう人がいる。
「休んで下さい」「眠って下さい」という言葉さえ、その人を充分に傷付ける。
(「休む」より引用)
これ帯にあって、それだけ読んで彼の愛すべき人柄にグランと揺れてしまったよ。
人間の25のテーマについて、知らない事を考え考え一生懸命にひねり出して書き上げたエッセイには自己啓発本にあるような戯言や偽善は存在しない。
吉村作品特有の変態性も今回はほとんどない。
なんせエッセイ初だからそんな余裕はなかったらしい。(笑)
期待している変態読者様、いつが死ねまでにアブノーマルエッセイ集を出すと著者は宣言してますので気長に「待つ」をしてみようじゃないか。
で…
「壊す」のテーマには吉村作品の真髄を見ることが出来た。
不器用で落ち着きの無い愛すべき破壊屋さんの吉村さんの作品は「壊す」を得意としている。
しかもその作品における破壊力といったら糞尿垂れ流しの口の中が鉄の味するくらい壮大なスケールで腐りながら壊している。
でも、それが何故なのか?吉村さんが変態なのか?
いや、違う。普通のおっさんだし。
だから、怖がらず目を背けず、耳を澄まして壊した先を想像してみて。きっと、光りを放つ宝石が見つかるから。
だってさ、壊さないと見つからないんだよ。
吉村さんは、こう言ってた。
「私が一頭の熊、一本の楠の木だとしたら、
人類など一人もいらない。」
(「破壊」より引用)
吉村さんの哀しく優しい人柄がそこにある。そして教えてくれた。
人類が犯す無責任で自己中心な破壊を知らないことには出来ないということを。
教えたくないエッセイ。
★MAX!
ちなみに、吉村萬壱さんの著書で一番好きな作品は『ボラード病』という最後の一文で毛穴開いちゃう恐怖が待っているディストビア小説がある。
こちらも、是非どうぞ。