『土の中の子供』中村文則さん著 読了
『土の中の子供』中村文則
P160
親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々。27歳といった若さでタクシードライバーとして生きている主人公の、痛めつけられた者にしか訪れない異質な世界を垣間見ては重くて暗くて遣る瀬無くなる。
遠い親戚に預けられた幼い「私」は、なぜ自分が暴力を受けるのかを理解できない。
痛みのあまり漏れてしまう悲鳴がおかしな声であるばっかりに、更にヒートアップする暴力に「私」はいつの間にか自分の心を別世界へ向けて酷い仕打ちから解放されようとする。
人は、耐え難い状況におかれると脳に何かの物質が流れて麻酔をかけてしまうのか?
その何かが、「私」にとっては暴力を受入れ快楽へと誘うことで救われようとしていたのかもしれない。
「もっと、もっと、醜い卑しい悪意で死の手前まで連れて行け!」
私には、主人公からそんな声が聞こえてきたような気がしてならない。
生と死の境界に「私」は一人居場所を見つけていたのか?ぐるぐると回るだけの悪業の記憶から逃れることは出来ない。
酷い・・・暗い・・・辛い・・・
なのに、退路を断たれてしまう。
中村文則さんの「ひきずり手法」といでも言ってしまおうか、言葉がひらひらと前に前に流れていくから追いかけるしかないのだ。
あっ、やっぱ芥川賞受賞作なんだね。
( ̄▽ ̄;)
中村文則さん自身が体験したかのように(実際体験していたらどうしよう)、臨場感迫る心象描写に気が滅入ってしまった。
読む時のコンディションって大事
昼間に読む本でもなけりゃ、疲れて心がクタクタな時もどうだろうか?
体調や心を万全に整えて臨んだら、この本はただの薄気味悪い紙切れとなるのか?
あえて、ボロボロの時に再読してみてどんな効果が出るか自分で実験してみよう。
(ボロボロの時が来ても困るが・・・)
フランツ・カフカな世界
主人公の「私」が作中で読んでる『城』はおそらく、時代の否定面を代表することに生涯をささげた作家、フランツ・カフカの作品だと思う。
未完の作品でもある『城』にチャレンジした者の多くはその難解さにグルグル状態に陥った経験があるのではないか?
現代人の疎外された姿を抉り出している。
でも、私はこんな暴力的で不条理なフランツ・カフカの作品が好きだ。
存在喪失という原罪を負うて生まれた者の生涯の苦悩と努力によって、いかにして世界に所属をして存在するかを問う存在獲得を巡る表現の集合体的な世界を知る事が、読書の醍醐味だと常々思っている。