なないろ日記 ~りんごの国から~ 

読書・折り紙・エコたわし作り・お絵かき・展覧会 あれもこれもと、七色にコロコロと襲い来る趣味との戦いの壮絶な記録!!

『戦場のコックたち』深緑野分著 読了

本屋大賞ノミネート7作目

『戦場のコックたち』深緑野分(ふかみどりのわき)著をようやく読了する。

一人ひとりが「主役」になる場所がある

これは、日本の自衛隊募集のポスターである。

http://angel.ap.teacup.com/taskforce99/img/1389550696.jpg

 

この作品の主人公は第二次世界大戦中のアメリカ人ティム青年だ。

第二次世界大戦といっても、にヒトラーの独裁的支配がヨーロッパを舞台に世界中を巻き込んでいった1941年末のアメリカ対ドイツだ。

当時のアメリカでは『これは他人事じゃない、僕らの戦争なんだ』をスローガンに志願兵の勧告が始まっていた。

 

日本の自衛隊募集の『一人ひとりが「主役」になる場所がある』とアメリカ志願兵募集の『これは他人事じゃない、僕らの戦争なんだ』がとても似ていて今更ながら驚いた。

 

ティムも田舎で平和に暮らしていたにもかかわらず、田舎の友達が続々と志願を始めるとなんとなく流されるように自ら志願してしまう。徴兵よりも自ら手を挙げた方がボーナスが多くもらえるとか、生活が困窮しているわけでもないのに・・・17歳で町を出た。

しかし、図体ばかり大きくて子どもっぽいティムは「キッド」と呼ばれていた。人一倍食いしん坊で、軍隊生活でも軍人に向いていないと早々に判断したティムは、コックという特技兵を志願することになった・・・

後方支援

戦場では、通信兵・衛生兵・補給兵・コック兵といった後方支援兵が存在する。
コック兵においては、戦場での兵士たちの健康を命を預かっているのも同然の任務でありながら、同じ兵隊にはバカにされている。そればかりか、自らも戦うといった二重苦である。
衛生兵なんて、もう悲惨極まりない。
この作品の中では、銃弾が飛び交う中、護身用の銃だけを持って負傷した兵を助けに銃弾の雨の中に一瞬の迷いも見せずに果敢に飛び込んでいく。これって、どうしようもない。

目的は負傷者の元にたどり着き救うことであって、衛生兵を援護する仲間を信じ自らの身を守ることはしない。結局のところ、助けに向かった衛生兵は命を落とす。
衛生兵は、自らの命を盾に後方支援をしてたのだ。

そんな、姿、今の平和な日本人の若い読者からしたら、「なぜ?」と共感に値しないのかもしれない。しかし、それを敢えてスポットあてるかのように描いているのは32歳の日本人作家だ。

翻訳かと思った

分かってはいたけど、これは外国人作家の作品を日本人が翻訳しているかのようだった。外国名が苦手な私は、ティムが出会う個性豊かな兵士たちにすっかり魅了されてしまって、前線で何日も風呂に入らない自分がアメリカ軍の仲間と一緒にそこに居た。
(日本人が書いてるの?な要素がどこにもみあたらない。凄いぞこれって!)

この作品の一風変わったところは、戦地の日常の中で事件がいくつか起きていく。それをティムと仲間たちが推理して解決していくのだ。
表題からしたら、戦場の美味しい料理?な話かと思ったが、かなり違っていた。
もちろん、料理は人間の記憶の中では「母親」だとか「貧困」と深い関わりがあり、大切なキーワードではあるが、そこではない場所にこの作品の扉が置かれていた。

人間性と忘却

この作品で辛く難題だったのは、戦場で、人間性を説くことだった。

ドイツ兵とアメリカ兵、人種の違い・・・
正義の為に戦うものが、また違う正義の為に戦うものと殺し合うのが戦争だ。

そして、人間は忘れる生き物だ。

エピローグ

345ページだけ、文字が太字に見える。たぶん太字だ。ここをじっくり読んで欲しいというメッセージだろうか?それとも、私にとって、この文章がくっきり浮かび上がっているのだろうか?
エピローグを読み終わり、すぐにプロローグに戻ってしまった。

もしかして、これってあれほど悲惨な戦地にいたにも関わらず、再び戦地に戻りたくなる兵士の気持ちと似ているのか?

戦地でのティムや仲間たちが共に試練を乗り越えて友情を育む成長物語が懐かしくなる。

後半で、大切な人が次々と犠牲になってしまうから、最初に戻りたい気持ちが強いのかもしれない。

 

第二次世界大戦で、アメリカ本土はほとんど戦争を感じさせない日常だった。
民間人が犠牲となることも無かった。
しかし、日本は違った。民間人が多く犠牲となった。

不思議だ

それにしても不思議なのは、深緑野分という作家だ。
戦後生まれの日本人でありながら、この作品を翻訳?と思わせるほどに命を吹き込んだのは何故?
よほど、足を使って取材をしたに違いない。

今の日本人の若者には、戦争小説や戦争映画はもう興味ない分類かもしれない。

しかし、若い作家がこうやって戦争を風化させずに小説として残すことは、平和な日常の中に潜み、うっかり戦争へのスイッチを押さないためのとても重要な後方支援かもしれない。

 

書店員が、読ませたいとノミネートした作品の中に

『戦場のコックたち』が選ばれていることに納得した秀逸作品だった。