『黄色いマンション黒い猫』小泉今日子著 読了
SWIRCH連載「原宿百景」に綴った33篇+書き下ろし1篇
2007年4月号~2016年1月号に連載されたエッセイ。
でも、更新したことないんだ。
ファンに住居を暴かれては引っ越しするもんだから、すっかり引っ越し名人になっている。
16歳「私の16歳」で歌手デビューした国民的アイドルの小泉今日子ことキョンキョン。彼女の40歳から50歳までの10年間のエッセイは、私とキョンキョンが会話でもしてるようで実に不思議な読書体験だった。
まるで芸能界の空の上で羽ばたいてる華やかな世界の小泉今日子と、私と同じような「普通」の世界の真ん中にキョンキョンはとぼけた顔して座っていた。
80年代の青春時代のキョンキョン
キョンキョンがアイドルやっていた時代って、まんま私の青春時代なんだ。
ちょっと生意気で不良を気取っているくせに、怖がりで恥ずかしがりやに面倒臭いが口癖な、いわゆる思春期まっしぐら。
だから、このエッセイはそんな自分を懐かしみながらキョンキョンがいい女へと時を経ているのが嬉しくなる。まるで自分もそうだといわんばかりに。
特に、キョンキョンの母親のユミさん。最高だ。
私の母親とさほど変わりがない。かといって、私の母親もユミさんも、普通とはかなり離れた場所で自由なオーラを出しまくっている。
似たような母親を持つだけでなく、世界一恐れている姉を持っているところなども同じで次は父親は?となったが、父親だけは似てなかった。(笑)
気が付くと、自分とキョンキョンをすぐ近くに感じながら読み進めていき読了後には、次はいつどこへ飲みに行こうか?と、まるでマブダチ気分に浸っている。
ここには、なんてことない青春時代なくせに、実のところ彼女は「なんてったってアイドル」とか「夜明けのMEW」を歌ってドラマや映画に大忙しの人気者だったからびっくりだ。
猫
キョンキョンは猫が好きだ。
表題にもある、黄色いマンションに現れた黒い猫の話・・・
20年以上も前
「キョンキョンへ」と書かれた段ボールに黒い猫。
ファンからのプレゼントか?ああ、マンションもうバレちゃったのか?
こんな二つの思いが交差しながらも、大好きな猫がそこに「嬉しいけど忙しくて飼えないなあ~」なんて思いながら黒い物体を抱き上げようとした。
人間というものの耐え難い悪意に気が付いた。黒い猫は可哀そうに両目を潰されていたのだ。
これ読んだら、キョンキョンの受けた悲しみと怒りが痛いほどこっちに伝わってきたよ。辛かったね。可哀そうに・・・猫もキョンキョンも・・・
夜明けのMEW
エッセイを読んでる時に、私の耳にはこの「夜明けのMEW」が流れ始めていた。
http://j-lyric.net/artist/a000afb/l005dfb.html
きっと、キョンキョンの恋愛はこっそりとひっそり秘密だったんだね。
彼からもらったカセットテープを聴いてる時はそばにいるように感じられて嬉しかったって。
年相応の普通の女の子に戻って幸せだったんだね。
野次馬読者の矛盾
正直このエッセイを手にした時に、帯には「今だから書けること、今しか書けないこと。」
って、あったから、あの頃に噂になったチェックの彼とか、最近歳の差で話題にもなった亀な奴の話がチラッとでも読めちゃう?って野次馬根性で期待していた自分がいたよ。
ところがだよ、キョンキョンの日常の中で、私が求めている具体的な恋愛話って華やかな部分であって本来の小泉今日子とは違う演じてる部分かもしれない。
本当の小泉今日子って人は、もっと恋愛に不器用で発展途上だったり、かと思えば独りでいる自分を結構気に入っているのかもしれない。
ついつい、恋愛相談にも乗ってしまいたくなるくらい、小泉今日子がすぐそばにいるような気がしてならないんだ。
アイドルで手が届かない人の噂話って週刊誌パラ読みで通り過ぎる興味だけど、すぐそばにいる友人のそんな恋愛話しを興味本位で面白がるわけにはいかない。
だから、このエッセイはこれでいいんだ。ホッと胸をなでおろす自分がいて矛盾だらけ。
小泉今日子は本が好き
アイドル時代から、文庫本を持ち歩き時間が出来れば本を開いていた彼女。
最近「小泉今日子 書評集」を購入して読んだが、なかなかの選書に驚いてしまった。
そこには97冊のおすすめがあるのだが、自分はその中で9冊しか読んでいなかった。
(沼田まほかる2冊もおすすめしていて驚いた。私も2冊とも読了してるが)
育った環境で家族が読書好きだったこともあって、自然と母の本、父の本、姉の本と本棚から抜き取ってはミステリーや恋愛もの、ファンタジーと幅広く読んできたという。
そんなキョンキョンは、人としゃべるのが得意じゃないので本を読んでいたらしい。
そう本を読む仕草って両手で結界を張って
「今読書中ですから、話しかけないで」の、あのスタイルを作っていたんだろうね。
本を読んできた少女が本を読む習慣をずっと続けてきて、エッセイを出した。
文章がうまいのはあたりまえか?(笑)
キョンキョン、これからも一緒に歳を重ねていこうね。
あっ、装丁は和田誠さん。