『蛇の道行』加藤元著 読了
あらすじ
『蛇の道行』加藤元
なにがあっても、離れない。家族は失った。けれど、隣にはお前がいる。昭和24年、上野。戦争未亡人ばかりを集めたバー・山猫軒で、二人はひっそりと暮ら していた。バーを切り盛りする青柳きわと、住み込みで働く立平だ。生き抜くため、絡み合う蛇のように彼らは時代を駆け抜けた。戦後復興期を舞台に、親のな い少年と若き未亡人の名付け得ぬ関係を描いた加藤元の新たなる傑作!
Amazonより引用
加藤元さん、初読み!
図書館の新刊コーナーで光を放っていたのは、日本画家の片岡球子の「三国峠の富士」のリトグラフを表紙に持つ『蛇の道行』だった。
で、作者はというと
加藤元・・・知らないな~。おっちゃんだろう?
と、後ろのプロフィールを見たら1973年神奈川県生まれ。
私より年下だ・・・💦
しかも・・・女だったよ!
そんな世代が描く戦後の日本には何が待っているのか?
かなり調べものが得意な作家とみた。
とりあえず目次が漢字二文字(第一章は殺生)で見るからに明るい作品ではなさそうだった。
あなた誰?
あらすじにもあるように、きわと立平の二人がまず物語の本筋をリードしてるとして、その他にも多くの出演者が我よ!我よ!と浮いてくる。
途中で、「えっと、あなたは誰だったけ?」と混乱する女性陣の名前。
きわ・さわ・とわ・サエ・トモ代・花枝・・・
そして、誰もがある意味かなり荒んでいる。
善人ってどんな時代にもいるんじゃないの?ってのは勘違いだと思わされたし、そもそも「善人」なる勝手な私の中の定義がぐらぐらと崩壊していく様が滑稽に流れていた。
檻の中の虎
誰の中にも檻に閉じ込めた「虎」がいる。
その「虎」を解き放った瞬間、虎は飼い主を食い殺す・・・
戦後、生きる為に自分の事で必死な日本人には、他人を陥れたり騙したり盗んだりすることなど、なんともないのだ。
目を伏せたくても逃れる事の出来ない、殺戮な風景を日常的に見せられた者は何としてでも生きるしかなかったのかもしれない。
「悪」って何だろう?
とにかくトモ代っていう女性が酷く「悪」なのだ。犯罪すれすれというか、見つからなきゃいいわ!程度な嫌らしい部分から、真面目に生きている他人をジリジリと追い詰めて陥れた挙句に食い物にしていく。共感なんてできないけど、目が離せなくなる。
そんな女性、周りにそうは居ない。
今が平成の平和な世の中だからだ。
例えば犯罪者の多くは、他人の弱みにつけこんだり弱い者をターゲットにし「悪」をにじませて法廷では誰からも共感されず同情もされない。けれど、そんな犯罪者の根底にある醜さの黒いものに人々は何かしら興味を持ってかれてしまうのも真実かもしれない。
この作品は、そんな「悪」に焦点を当てたミステリーであり、同時に「正義」についても頭を混乱させてグラグラにかき回しゲロってしまいそうになる胃袋鈍痛な作品だった。