『レインツリーの国』有川浩著 読了
あの頃読んだ本は今・・・
『レインツリーの国』有川浩
物語は、高校時代に読んだライトノベルSFアクション『フェアリーテール』はその結末が悲しくて、作者の拒否されたようにも思え、大好きだったのに二度と読み返せない本になってしまっていた。
ところが社会人になって10年後に読み返した時、「あの物語のラストはあれしかなかった」と思った・・・
こんな経験、私にもあります。
私の場合は村上春樹の「ノルウェイの森」です。
結末というか、主人公にどうしても近寄れなくて、むしろこんな奴いたらグーでパンチだ!って思って、現れるの待っていたぐらい「ケッ!」と唾を吐いてしまいました。
それが、大人になりすぎた40代に読み返したら、トクトクトクッと五臓六腑に染み渡り握った拳を引っ込めて、流れてもいないビートルズのナンバーに足がリズムを刻むほどでした。
『レインツリーの国』の書き出しは、入社三年目の向坂伸行が初ボーナスで買って三年目の付き合いになるノートパソコンで、ラストがトラウマになっていた物語のタイトルを検索した場面からスタートする。
『フェアリーテール』・・・
架空の物語だとしても、伸行のトラウマを知って凄く読みたくなった。
モデルになったラノベってあるのかな?
で、ネットサーフィンしていると、そういう時ってあるんだけど、そんなひょんな拍子から辿りついた検索結果の本の感想に伸行は前のめりで夢中になっていく。
「レインツリーの国」というブログサイトに書かれていた言葉が、とても丁寧で文章の端々から真摯な物の考え方が伝わってくる。そんなサイト管理者ひとみの人物像に、伸行は一瞬で心を奪われてしまった。
そこから、メールの交換がはじまる・・・
SNSでの出会い
2006年の作品では、すでにSNSが出会いの道具として有川マジックは直球を飛ばしている。
顔が見えないから、言葉を丁寧に伝えるのがいかに大事かが良くわかる。
私はこの主人公のように、これほどに丁寧に文章を入力しているだろうか?彼女が、言葉をしっかりと飛ばすことなく、わかりやすく真摯に書いているのには理由があった。
あえてネタバレはやめとく
ネタバレしちゃうと、読み始めの最初に伸の立場で彼女を感じる事ができなくなるので、是非作品を手に取って感じてほしい。
私は、P98にさしかかった時に、こみあげる涙をこらえる事がどうしてもできなかった。
平日の金曜日、何か悩みがあるわけでもなく、外は夏日のように暑い五月の昼下がりに主婦が目頭を押さえて泣きむせぶ。
有川さん、キュンキュン男子を描かせたら私ん中ではナンバー1です!!!
でも、途中から伸がうざったくもなってくる。
それって、彼女に自分が憑依してしまったのかも?そこまで、この作品は、読者を作品の中へ連行してどっぷりと主人公のどちらかへ意識を飛ばせて心をぐらぐら鷲掴みにしてしまうようだ。
この作品を読んだ後、私はもっと人に注意深く、そして寛容になりたいとそう思った。